退職給与規定がない会社が退職金を支給したい場合
中小企業の現実として退職給与規定がない
私の個人的な経験ですと、中小企業では退職給与規定がない
という会社が多くあります。
それでは、退職給与規定がない=退職金が支給できない
ということなのでしょうか?
そうではありません。規定の存在に係わらず退職金を
支給することができます。
労働基準法においては、89条に就業規則への記載事項という
規定が存在するだけで、民間企業に対して退職金の支払義務を
規定する法律はありません。
退職金を出す場合の注意点
退職金を支給する場合には、税法上で、必要な資料を用意しないと
源泉所得税や住民税を過大に徴収することになります。
ここでは、退職金を支給する場合の税法上の注意点を確認します。
1.退職所得の受給に関する申告書
これは、退職所得控除という退職金から控除できる経費のような
規定を適用するのに必要です。
通常の退職金であれば、所得税・住民税とも徴収しないで
退職金を支給することができます。
2.源泉徴収税額の算定(退職所得の受給に関する申告書の提出がある場合)
源泉所得税・住民税と共に計算します。
計算方法は次のようになります。
①源泉所得税(国税)
(退職金-退職所得控除)×1/2×所得税率=源泉所得税
所得税率は、次のサイトが参考になります。
②住民税(地方税)
(退職金-退職所得控除)×1/2×10%=住民税
3.源泉徴収票の交付
退職金は、通常の給与とは別の源泉徴収票が存在しますので、
それに沿って退職金、源泉徴収税額を記載して、退職者へ交付します。
4.経理処理と納付
①経理処理(勤続年数1年として計算)
(借方) | (貸方) |
退職金 100万円 | 普通預金 985,000円 |
預り金 15,000円 |
②納付
支給月の翌月10日までに源泉所得税と住民税の納付を
行うこととなります。
源泉所得税は、給与所得・退職所得の所得税徴収高計算書(納付書)にて
住民税は納入申込書にて納付を行うこととになります。
住民税を特別徴収している場合には、手許の住民税の納付書に
退職金に対応する住民税を追加で記載して、納付することになります。
(所得税法30条、地方税法50条の2~10、同法328条~328条の8)
ワンポイントアドバイス!
さて、確かに退職給与規定がなくても、労働基準法、税法上も
問題なく退職金は出せるのですが、実務上のポイントは
ここからになります。
退職給与規定がないということは、退職金であることの
証明をどうやって行うのか?ということになります。
つまり、税法上、退職金は賞与なのか?退職金なのか
区別できないのです。
つまり、退職金であることを説明しないといけなくなります。
この場合には、次のものを退職時に用意しておくといいです。
1.退職金の合意の覚書(従業員の場合)
文章としては決まりごとはないですが、次のことを盛り込む
ことが良いと思います。
・退職日、退職金の金額、支給日、退職金の算定基礎
・覚書を交わした日、退職者と会社の双方の署名押印
2.臨時株主総会決議(役員の場合で特別に支給する場合)
こちらも文章として決まりごとはないですが、
主に、重要な役員が退職する場合に退職金を特別に
支給するといったときには、用意するのは通常だと思います。
内容としては、退職に至った経緯、退職日、退職金の金額
退職金の算定基礎です。
臨時株主総会決議の議事録と覚書を兼ね備えておけば、
税務調査においても、問題のない説明ができます。
この記事は、この記事を作成してる時点の法令に基づき
書かれています。法令に改正があった場合には、現在の
取り扱いとは違った取り扱いになる可能性があります。